1960年代後半はロックのパワーが炸裂、その勢いにジャズが飲み込まれようとしていた時代だった。そんな時代に敢然と立ち上がったのがマイルス・デイヴィス。マイルスは別にロックを演奏したわけではなかったが、エレクトリック楽器を取り入れロック・ファンをも魅了する新しい形のジャズを提示した。その金字塔ともいえる作品が69年録音の『ビッチェズ・ブリュー』なわけだが、本作はその半年前に録音した作品。
ハービー・ハンコック、チック・コリア、ジョー・サヴィヌルとキーボード奏者が3人、さらにギターのジョン・マクラフリンを加えた8人編成による演奏は非常に牧歌的で、そのサウンドはどこかデビュー当時のウエザー・リポートに近い感触。本当は複雑だけどシンプルに聴こえるリズムと各人のスケッチ的なソロが微妙に絡み合い、まるで絵画をみているような気分になる作品だ。なお本作のリハーサル・テイクは既発の3枚組『ザ・コンプリート・イン・ア・サイレント・ウェイ・セッションズ』で聴くことができる。(市川正二)

 ・ amazon music : In a Silent Way (1969) : イン・ア・サイレント・ウェイ

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